今どきの宇宙人

画像:©NASA/JPL-Caltech.

今年も残すところ1か月を切った。昨年に続きコロナ禍で大変な1年だったが、その中でも宇宙に関するたくさんの興味深い話題があった。中でもひときわ目に付いたのが「火星」の話題である。今年、火星に到着した探査機から次々に送られてくる画像・映像を通して、皆さんも新たな火星の素顔をご覧になったことと思う。

火星探査の大きな目的は「生命の痕跡を探る」こと。地球の一つ外側をまわる火星は、地球ができた時の環境とよく似ているといわれ、我々のような生命が存在する可能性が期待されてきた。現在の火星探査は無人の探査機を使って表面や土中を調べている段階で、人間が火星に行って活動するためには、まだまだ解決すべき課題が多いようだ。

今年の2月に到着したアメリカの火星ローバー「パーシヴィアランス」は、既に表面の岩石からサンプルの回収に成功している。それらのサンプルは密封されたチューブに保存され、将来のサンプル・リターン・ミッションで地球に持ち帰り詳細な分析を行うことになっている。このサンプルを分析することで、人類史上初めて「地球外生命の痕跡」が見つかるのではないかと期待されている。とても楽しみで待ち遠しい話題だ。

サンプル取得後の岩石(9月1日撮影)とサンプルチューブに格納された岩石のサンプル(9月7日撮影) ©NASA/JPL-Caltech.

 

私たち以外の生命が宇宙に存在するのか、存在したのかについては、宇宙分野の関係者に限らず一般の高い関心事の一つといえる。「宇宙」から連想するものとして、ロケットや宇宙ステーション、UFOなどと並び上位にランキングされるのが「宇宙人」である。
担当する展示・イベント会場では、宇宙服を指差して『宇宙人だ!』と叫ぶ子供の声をよく耳にする。

未だ出会えぬ宇宙人!いったいどんな存在なのだろうか。私たち地球人にはその存在が認識できないだけで、実際はそばにいるのかもしれない。
「宇宙人」とは少々広い概念だが、地球以外に生命の存在を確認できていない我々にとっては、そのように呼ぶしかない。もちろん、我々自身も地球に住む「宇宙人」である。地球以外に生命の存在が確認できれば、地球人としての自覚が生まれ、世界はもっと平和になるのではないだろうか。

昔から「宇宙人」のイメージとして定着してきたのがタコの風貌をした火星人である。
1898年にイギリスのSF作家H・G・ウェルズが発表した『宇宙戦争』は、高度な文明を持った火星人が地球に襲来する物語。この作品で描かれた火星人はタコのような姿をしている。大学で進化論を勉強したウェルズは、『100万年後の人類』(1893年発表)という作品の中で、文明が発達すると人間の頭脳は大きくなるが、歩行や力仕事を機械に頼るようになり筋肉は退化、また栄養を直接とるようになり消化器官もいらなくなると書いている。もし火星に高度な文明を持つ生命体がいるとしたら頭は大きいけれども、胴体や足は退化していると考えたのである。それらの考えは、お馴染みとなったタコの風貌を描き出した。その後、『宇宙戦争』のフランス語版でM.ドゥドゥイが描いた挿絵によって、タコの姿をした火星人のイメージが定着した。

『宇宙戦争』のフランス語版のM・ドゥドゥイの挿絵

 

時代が進むにつれ、タコの前提条件は少しずつ崩れてきてはいるが、今なお宇宙人のイメージとして持ち続けている人は少なくないと思う。もちろん、私もそのうちの一人である。しかし、「平成」の香り漂う世代がイメージする宇宙人は、少々違っているようだ。

子供が小学生だった頃のある授業参観日でのエピソードである。
一方的に授業を観るだけと余裕で出かけたところ、親子が協力して出題に答えるというイベントが予告なしに始まった。それまでのビール片手の観客気分から突然舞台に上げられた状況に少々緊張しながらも、祭り好きの性格も手伝ってか「やってやる!」と少々前のめりになりながら教壇近くへと移動。先ずは5人程度のグループに分かれ、先生からの出題を絵にする。次にその絵を子供が見て回答を黒板に書く。最後に回答の横に絵を貼り付けて皆で答え合わせという流れだ。

絵は子供の頃からかなり問題のあるレベル。もちろん不得意で、中学生の時に遊び半分で適当に色を重ね塗りしていたところ、偶然にも良い加減に仕上がり「佳作」を受賞した以外は、常に逆向きのマスターピースを描き続けてきた。それをよく知っている妻は、とても楽しそうにこっちを見て笑いをこらえている。一方、子供からは「うまくやってね!!」と言わんばかりの鋭い視線に少々プレッシャーを感じながら出題を待ち構える。

出題されたのは、なんと「宇宙人!!」。これは外すわけにはいかないと自信をもって描いたのは、お馴染みタコの火星人だった。ただ、咄嗟にこれが我が子に通じるのか?(もちろん、過去にそれを確認できるような機会などなかった…)と不安になり、タコの下に円盤(UFO)を描き加える演出もしてみた。わずか30秒間で表現した私の自信作『UFOに乗ったタコの火星人』が仕上がった。

さぁ答え合わせだ。何よりも気になっていたのは他の親が描いた絵である。一斉に黒板に貼り付けられた絵にはタコがいない。それどころか、私のタコ以外はよく似た絵ばかりだ。
私と同年代と思われる先生からは「時代を感じますね~」とタコに対するコメントが一言。そう、タコは既に時代を感じるイメージになってしまったのである。それも平成ではなく明らかに昭和の時代であることも確かなようだ。

同じグループの親は限りなく平成に近い昭和後期の生まれと思われる若者が多く、描いたのはいずれも黒で塗りつぶされた鋭角な目だった。しかも側面から見た片目のみである。おいおい目だけかい!と言いたいところだったが、よく見ると短時間での表現と伝えるべき情報の選択という点で見事にポイントを押さえており、どことなく映画にも登場する「宇宙人」のイメージとも重なる。ただ、私にはどうしても陰に潜む詐欺軍団(犯人)のイラストに見えてしまう。私以外の全員がほぼ同じ絵を描き、子供がしっかり正解していることを考えると、今どきの「宇宙人」のイメージを代表しているのだろう。他のグループにいた同世代の親の一人から『やっぱタコですよね!』と慰めともとれる一言があったが、果たして私の描いたタコは平成の香り漂う世代にはどのように映ったのか?

肝心の我が子の回答は「宇宙人」だった。とてもユニークな親子にならなくてすんだことに安堵していると、こちらを見て『タコじゃん!』と言い放って自席に戻っていった。最後に書き加えたUFOが決め手になったのだ。相手に伝わる情報発信のために、わかりやすさを追求することは広報の大事な心構えである!

このように、世代や時間の経過とともに「宇宙人」のイメージも変わっているようだ。
実際の研究成果や事実に基づかないイメージであっても、世の中の人々が率直に感じていることを把握することは、宇宙に興味関心を持って入ってきてもらえる入口を大きく拡げることにもつながる、とても大切なことだと考えている。「鋭角な目」の次に何がくるのか、今後も引き続き実態把握に努めたい。

他の親が描いた目とよく似たイラスト(実際には側面から見た片目のみを描いている) ©七三ゆきのアトリエ

 

これまでの火星探査はアメリカの独壇場で進められてきた。今年になって中国やアラブ首長国連邦など新たな国が参加する中で、世界の火星探査はますます活発化している。アラブ首長国連邦の火星探査機「HOPE」は日本が世界に誇るH-IIAロケットで種子島から打上げられたこともあり、今後の活躍を期待して応援したい。

このような中で、日本は「火星衛星探査計画(MMX) 」によって火星の衛星からサンプルを回収し、2029年に地球へ帰還する計画を進めている。この計画が実現すると、日本は世界で初めて火星衛星の物質を持ち帰るだけでなく、NASAのミッション(2031年に地球帰還)に先んじて、人類史上初の「地球外生命の痕跡の発見」となる可能性がある。8年後が楽しみである。

先月24日、アメリカ国防総省がUFOの目撃情報を調査する部署を新設すると発表した。新設される部署は、対象となる物体を検知、識別、特定する役割を担うという。何か公にするだけの動きがあるのか。我が自信作が現実になる日も近いのか…!?

最後に、最新のJSFオリジナル展示企画をご紹介します。
第1弾の「アポロ展」は「月」がテーマでしたが、第2弾は「火星」がテーマです。
詳しくは、火星の素顔をさぐる~生命の痕跡をもとめて~ をご覧ください。

ご質問やお問い合わせは、JSFオリジナル展示お問い合わせより、ご連絡ください。

伏見 一也

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